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東京海上日動の2025年度コンバインドレシオ95.6%|
保険会社の「100%」をどう読む?

/ ひろみの株窓 / 約6分

小売店なら売上と原価、メーカーなら製品の利益率。では損害保険会社の決算では、どこを見ると引受けの採算が分かるのでしょうか。そこで登場するのが「コンバインドレシオ」です。

難しそうな名前ですが、保険金などの負担と事業を運営する費用を、比率で合わせて見る指標です。東京海上ホールディングスが2026年5月20日に公表した決算記者会見資料から、東京海上日動の2025年度(2026年3月終了)の実績を読みます。グループ全体や海外子会社の数字と混ぜず、同じ会社・同じ定義の2024年度と比較します。この資料は日本基準による実績で、会社はグループの2026年度予想からIFRSベースで説明しています。[1][2]

2012年9月撮影の東京海上日動ビル本館(撮影当時)
東京海上日動ビル本館(撮影当時)(2012年9月撮影)。写真:Rs1421 / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0(画像改変なし)。

損害率と事業費率を、別々に置いてみる

資料の東京海上日動・単体の表では、コンバインド・レシオ(民保ベース)を「正味損害率(民保E/Iベース)+正味事業費率(民保ベース)」と定義しています。損害率は、支払った保険金に支払備金の増減と損害調査費を加えたものを既経過保険料で割った数字で、事業費率は、諸手数料・集金費と引受けに係る営業費・一般管理費を正味収入保険料で割った数字です。単純に同じ年度の現金収支を割っただけの数字ではありません。[1:資料2頁、25頁]

東京海上日動・民保ベース2024年度2025年度前年差
正味損害率(E/Iベース)64.5%64.2%−0.3ポイント
正味事業費率31.6%31.4%−0.2ポイント
コンバインド・レシオ96.1%95.6%−0.5ポイント

ここでの2025年度は2026年3月に終わる年度です。変化幅は「%減」ではなく「ポイント」と記しました。96.1%から95.6%への変化は0.5ポイントで、比率そのものの0.5%減とは別です。

同じ定義で見ると、損害率の低下0.3ポイントと事業費率の低下0.2ポイントが、合計0.5ポイントの改善に対応します。「改善した」と言われたときに、どちらが動いたかを表で分けて確かめられます。

東京海上日動のコンバインドレシオ。民保ベース/単位:%。2024年度96.1、2025年度95.6
全社の最終利益率ではありません。損害率+事業費率。原資料[1]資料2頁から作図。 図:ひろみの株窓。
  • 2024年度:96.1
  • 2025年度:95.6

100%を下回ったら、利益率3.9%?

95.6%と聞くと、「残る4.4%がそのまま会社の利益率」と計算したくなるかもしれません。指標の感覚をつかむ入口にはなりますが、連結の最終利益率と同じではありません。グループの事業範囲、投資損益、税金などが異なるうえ、比率の分母や期間の対応にも定義があるためです。

仕組みだけを単純化して、同じ分母100に対して保険金等65、事業費31なら、合計は96です。この例では4が残ります。ただしこれは指標の構造を説明する仮定で、実際の保険料収入や利益額を再現したものではありません。

100%未満は引受けの採算を見るうえで一つの目安になります。それでも、その数字だけで全社の利益や財務の安全性、株価の割安さまで決めることはできません。「100%未満だから買う」という使い方より、何が変わってその比率になったかを読みたいところです。

ひろみ

合計が良くなったら、損害率と事業費率へ戻ってみましょう。災害の影響なのか、保険料や費用の変化なのか。見る場所が具体的になります。

自然災害の少ない年だけで判断しない

損害保険では、台風、豪雨、地震などの発生が支払負担に影響します。事故の頻度や修理費の上昇も関わります。ある年の損害率が下がっても、それが翌年も同じように続くとは限りません。

同じ資料には、東京海上日動の自然災害による正味発生保険金も載っています。2024年度は1,159億円、2025年度は555億円で、約52%少なくなりました。[1:資料2頁] 自然災害の支払いが半分ほどになったのに、損害率の低下は0.3ポイントにとどまっています。災害以外の要因も動いているため、災害の多寡だけでは損害率の変化を説明しきれないことが分かります。

二つの年度を比べるときには、両方とも実績なのか、両方とも同じ条件の調整値なのかをそろえます。片方だけ都合のよい値を選ぶと、改善の幅を誤って読みます。災害の影響を除いた値だけでなく、実際に起きた損失への対応も大事です。なお、この資料には自然災害の影響を年平均水準に置き換えた損害率は見当たらなかったため、本稿では扱っていません。

事業費率が下がる理由も、一つではない

事業費には、代理店に関わる費用や保険事業を運営する費用などがあります。分子の費用が減れば比率は下がり得ますが、分母の保険料が増えた場合にも下がることがあります。人員や拠点を減らした結果だけとは限りません。

会社は2025年5月のIR説明会資料で、代理店手数料の仕組みなどを見直す取組みを説明していました。[3] ただし、そこで示された将来の削減見込みを、2025年度にすべて実現した効果と読んではいけません。表の実績と、施策の計画・目標は分けて追います。

保険料率の改定があっても、契約が更新される時期などによって効果の表れ方は異なります。比率が変わった理由を考えるなら、費用だけでなく、保険料の増減、種目の構成、契約の動きにも目を向けたいところです。

引受けの採算と、会社の資本をつなぐ

保険会社は、将来の保険金支払いに備える責任準備金などを持っています。現時点の比率がよくても、想定と異なる大きな損害や、見積りの変更が起こる場合があります。資産運用にも金利、信用、為替などのリスクが伴います。

そのため、コンバインドレシオは保険会社を読む入口にして、利益の中身、準備金、資本の十分性へ読み進めます。運用益で全社利益が増えたのか、保険を引き受ける採算が改善したのかでも、次に注目するリスクは違います。

掲示板などの意見を参考にする場合も、保険金の支払いへの懸念と、開示された実績を区別します。特定の投稿が会社全体のリスクや投資家全体の見方を代表するわけではありません。

95.6%という数値を、一つの採点結果で終わらせないこと。損害率と事業費率、実績と調整値、単年度と継続性へ分けると、保険会社の決算が少しずつ読みやすくなります。

出典・確認した資料

[1] 東京海上HD:2026年3月期 決算記者会見資料(2026年5月20日)。東京海上日動火災保険・単体の損害率、事業費率、コンバインド・レシオ、自然災害正味発生保険金(2頁)と定義注記(25頁)。

[2] bsrweb.jp(JOURNAL):東京海上HD、2025年度決算を発表(2026年5月27日)。日本基準・IFRSの説明の区分、自然災害が少なかったとの説明の照合。

[3] 東京海上HD:2025年度IR説明会資料(2025年5月26日)。事業費に関する施策の説明(資料21頁)。確認:2026年11月6日。保険商品の勧誘や特定株の購入推奨ではありません。