NTTの設備に使うお金を追う|
EBITDAとフリーCFに差がある理由
通信は、毎月の料金が積み重なる事業に見えます。その裏では、回線やネットワーク、データセンターなどへ、長く使うためのお金が出ていきます。利益が出ている会社でも、その現金をすべて自由に配れるわけではありません。
NTTの2026年3月期、会社資料でいうFY2025の連結数値を使って、設備への支出と現金の残り方を見てみましょう。特に注目したいのは、EBITDA、資産取得の支出、フリーキャッシュフローという三つの数字です。似た説明で使われがちですが、測っているものは違います。[1]

2兆円を超える支出は、どの数字?
決算説明資料のCFのページには、有形固定資産、無形資産、投資不動産の取得に対する支出が示されています。2026年3月期は2兆2,472億円。前期の2兆1,323億円から1,149億円、約5.4%増えました。[1:資料34頁]
| 連結・単位:十億円 | 2025年3月期(FY2024) | 2026年3月期(FY2025) |
|---|---|---|
| 有形固定資産等の取得支出の大きさ | 2,132.3 | 2,247.2 |
| 営業CF(FY2024は休日要因を含む実績) | 2,364.0 | 1,485.2 |
| FCF(営業CF+投資CF) | 364.4 | 461.8 |
取得支出は、資産取得に関する現金の流出額を正の数で示しました。これは資料の設備投資額の図と、範囲や認識のタイミングまで必ず同じという意味ではありません。CFの支払額と、会社が管理する設備投資の額を比べる際は、定義を確かめる必要があります。
また、この取得支出がすべて成長投資だとも言い切れません。既存サービスを維持する更新と、新しい収益を生むための増設などが含まれ得ます。全額を「将来の利益増加」と見込むことも、全額を「無駄な負担」と扱うこともできません。
FCFは「営業CF−設備支出」と一致する?
表の2026年3月期で、営業CF1,485.2から資産取得支出2,247.2を引くと、マイナス762.0十億円です。ところが資料にあるFCFは、プラス461.8十億円。引き算を間違えたのでしょうか。
この資料のFCFは、営業CFと投資CFの合計です。投資CFには資産の取得以外に、売却、投資の取得・処分なども含まれるので、「営業CFからこの取得支出だけを引いた値」とは一致しません。今回の投資CFはマイナス1,023.4十億円で、資産取得支出の大きさ(2,247.2)より小さく収まっています。その差は、取得以外の投資CFの項目が現金の入りとして働いた結果ですが、内訳は今回確認できた資料の範囲では分けられません。1,485.2から1,023.4を引くと461.8で、当サイトの計算でも資料のFCFと整合します。
- 営業CF:1,485.2
- 資産取得支出の大きさ:2,247.2
- FCF:461.8
会社によってFCFの定義が違うこともあります。比較記事で「FCFが多い会社」を並べたくなったら、まずそれぞれが何を足し引きしているかを確認したいところです。名前が同じだけでは、同じ物差しにはなりません。
引き算が合わないときは、数字を無理に合わせず、定義の注記を探してみましょう。決算書では、そこに理由が書かれていることがあります。
休日のずれだけで、前年比の印象が変わる
NTTのこの資料には、2023年度末(2024年3月期末)が休日だったことによる一部債権の決済時期のずれを除いた数値があります。この影響を除くと、前期(2025年3月期)の営業CFは2,171.2十億円、FCFは171.6十億円になります。表の前期の列は、影響を含む実績の2,364.0と364.4に統一しています。[1:資料34頁の注記1]
この違いは大きく、営業CFの減少幅は、実績どうしなら878.8十億円、休日の影響を除いた比較なら686.0十億円です。事業の稼ぐ力に変化がなくても、年度末の決済が翌期にずれれば、二つの年度のCFの見え方は変わります。
調整値があること自体を良いとも悪いとも決めず、実績値との違いを読みます。片方の年度に調整値、もう片方に未調整値を使うと、改善や悪化を誇張してしまいます。表を作る前にベースをそろえるだけでも、読み間違いをかなり防げます。
EBITDAがあっても、設備の更新はなくならない
同じページのEBITDAは、2026年3月期が3,402.2十億円、前期が3,239.3十億円でした。定義では営業利益に減価償却費などを調整していますが、使用権資産に関する減価償却費を除くなど、NTTの定義上の条件があります。[1:資料34頁の注記2] 単純に「営業利益+すべての減価償却費」と言い換えず、その条件を残して読みます。
減価償却は、長く使う資産の取得原価を、使う期間に分けて費用にする処理です。費用が計上された年度に同額の現金が出ていくとは限りません。例えば100万円の設備を現金で取得したら、支払いは取得時に起こり、費用は使用期間へ配分されます。償却方法や耐用年数によって、各期の費用は変わります。
費用を足し戻した指標は、事業の規模を見る手助けになります。ただし、古くなった設備を将来更新しなくてよい、という意味ではありません。税金、運転資金、利払いなどもあるため、EBITDAを株主へ渡せる現金とは扱えません。
設備投資が増えたら、その後の稼働を見たい
支出の多い年にはFCFが細くなることがあります。それが将来へ向けた投資なら、次に確かめるのは設備がどれだけ使われ、売上や収益にどうつながったかです。設備を造っただけでは、利用が進むとは限りません。稼働率や顧客の獲得、価格、運営費の動きが関わります。
同時に貸借対照表を見て、投資を賄った結果、負債や資産がどう変わったかも追います。資産が増えれば、減価償却や減損の論点が後から効くこともあります。成長投資という説明を、その後の数字で検証していく姿勢が大切です。
掲示板などで設備拡大への期待や懸念を読んだ場合も、発言数で成長を予測せず、会社の投資計画と実績に照らします。
今回の表は2026年3月期の通期決算に固定しています。このCFのページは「住信SBIネット銀行の連結影響を除く」と表題にあるように、年度の途中で連結範囲が動いています。前の年度と並べるときは、連結範囲と指標の定義が同じかを確かめてください。営業CF、資産取得支出、FCFを別々の数字として並べると、利益の見出しだけでは分からない設備型の事業の姿が見えてきます。
出典・確認した資料
[1] NTT:2025年度決算説明資料(2026年5月8日)。主に資料34頁の連結CFの詳細、脚注1〜3。
[2] 営業CF1,485,190百万円・投資CF▲1,023,424百万円は、有価証券報告書(第41期)に基づく集計j-lic.comで照合。確認:2026年11月6日。比率と差額は当サイト計算。投資成果や株価の上昇を保証するものではありません。