キーエンスの2026年3月期|
自己資本比率94.6%とROEを読む
借金が少なく、自己資本が厚い会社。安心できそうな響きですが、それだけで株の値段が割安か、今後も高い成長が続くかまでは分かりません。反対に、資本をたくさん持つ会社のROEが横ばいだからといって、利益の伸びが鈍ったとも限りません。
キーエンスの2026年3月20日終了年度を使って、貸借対照表とROEをつなげてみます。決算日は3月31日ではなく3月20日。今回は直近の通期決算(2026年3月期)に期間をそろえ、連結の数字を読みます。[1]

資産3.67兆円の、どれだけが自己資本か
Annual Report 2026の連結貸借対照表では、総資産は3兆6,706億5,500万円、純資産に相当するTotal equityは3兆4,714億7,200万円です。会社の財務ハイライトにある同年度の自己資本比率は94.6%(前年度は94.5%)。[1][2] 事業に使う資産の大部分を、株主に帰属する資本で支えている姿が読み取れます。
| 連結の項目 | 2025年3月20日時点・同終了年度 | 2026年3月20日時点・同終了年度 |
|---|---|---|
| 総資産 | 3,289,224百万円 | 3,670,655百万円 |
| Total equity | 3,108,552百万円 | 3,471,472百万円 |
| 親会社株主帰属純利益 | 398,656百万円 | 445,185百万円 |
| ROE(会社公表) | 13.5% | 13.5% |
上の金額はAnnual Reportの円表示で統一しています。会社サイトの財務ハイライトとは百万円単位の表示に差がある箇所があるため、金額を途中で継ぎ合わせていません。ROEは会社が公表する指標を掲載しています。
ここで「純資産」と「現金」は分けておきたいところです。純資産は、資産から負債を差し引いた持分の側の数字。銀行口座にそのまま3兆円がある、という意味ではありません。資産側には現預金のほか、有価証券や設備、債権などが並びます。何を持っているかは、資産の内訳を別に読みます。
利益も資本も増えると、ROEは横ばいになる
親会社株主帰属純利益は約11.7%増え、期末Total equityも約11.7%増えました。ROEは利益を自己資本に対して測る指標なので、利益が伸びても、土台になる資本が同じ割合で厚くなれば、比率は動きません。会社公表のROEが13.5%のまま変わらなかったのは、この組み合わせと整合します。
ただし、期末の純資産だけで割った値を、そのまま会社公表ROEと呼ぶのは避けましょう。ROEでは通常、期首と期末の平均自己資本などを用い、非支配持分などの扱いもそろえる必要があります。ここでは増加の割合を確かめ、ROE自体は会社公表の13.5%(前年度も13.5%)を使います。
- 2025 利益:100.0
- 2026 利益:111.7
- 2025 期末資本:100.0
- 2026 期末資本:111.7
例えば、年間利益10億円、平均自己資本100億円ならROEは10%です。翌年の利益が11億円でも、平均自己資本が120億円なら約9.2%。これは指標の仕組みを考える仮定です。利益が増えても、資本がそれ以上に増えれば比率は下がります。今回のキーエンスは両者がほぼ同じ割合で増え、比率が保たれた形です。比率だけを眺めると、この中身は見えません。
ROEが動いたら、利益の増減と資本の増減を別々にたどってみてください。「何%だから良い・悪い」で止めるより、会社の変化が見えます。
資本が積み上がる道筋も、表に載っている
利益のうち配当などで外へ出なかった分は、利益剰余金の増加につながります。ただし純資産の変化には、利益と配当以外にも、有価証券の評価差額、為替換算の差額、自己株式などが関わります。純資産の増分を全部「今年稼いだ現金」と読むと、ここでもずれてしまいます。
キーエンスの連結株主資本等変動計算書を見ると、利益剰余金は3兆205億3,500万円から3兆3,565億8,400万円へ、約11.1%増えています。[1] 利益の蓄積が資本を厚くする流れを、貸借対照表だけでなく、この変動表でも確かめられます。
利益を残すことには、研究開発や事業拡大に使える余力を保つ面があります。一方、資本を持つだけで利益が自動的に増えるわけではありません。その余力を何に使い、どれだけの収益を生むかが次の問いです。資本の厚みと資本効率は、両方あわせて眺めたい数字です。
自己資本比率が高くても、株価の変動は残る
自己資本比率は、財務の構成を見るための指標です。需要が弱くなること、競争が激しくなること、為替が動くことまで消してくれる指標ではありません。高い利益率の維持を投資家が強く期待していれば、その期待が変わったときに株価が下がることもあります。
また、自己資本比率の低い会社を、業種をまたいで一律に劣ると比べるのも無理があります。銀行、保険、鉄道、製造業では、必要な資産や負債の役割が違います。まず同じ会社の推移を追い、その後に事業構造の近い会社を比べると、数字を読む軸が安定します。
借入れを増やして自己資本に対する利益の比率を押し上げる方法もありますが、それには利払いと返済の負担が伴います。ROEの高さだけを目標にすると、財務リスクの増加を見落としかねません。分子の稼ぐ力が増えたのか、分母や資金調達の構成が変わったのかを確かめたいところです。
決算を見る順番を、二つの問いにする
「不調な時期をしのぐ余力はあるか」と、「預かった資本をどう生かしているか」。この二つの問いを持っておくと、自己資本比率とROEの役割が分かれます。前者だけでも後者だけでも、会社の姿を全部は説明できません。
掲示板などで資金の使い方への意見を読んだ場合も、その意見を株主全体の総意とみなさず、会社の資本政策と実際の開示数値へ戻って確認します。
次の決算を開くときは、貸借対照表、損益計算書、資本の変動表を一緒に置いてみましょう。利益の増加がどこへ残り、その厚みが次の成長にどう使われるのか。94.6%という一つの数字から、そこまで問いを広げられます。
出典・確認した資料
[1] キーエンス Annual Report 2026:連結貸借対照表、損益計算書、資本変動計算書(冊子10〜12頁)。
[2] キーエンス 財務ハイライト:2025/03・2026/03列の自己資本比率、ROE。確認:2026年11月6日。投資判断には現在の資料と株価条件もご確認ください。