ユニクロの海外売上は為替でどう見える?|
ファーストリテイリングの円換算を読む
海外で同じ数だけ商品が売れ、現地の売上も増えた。それでも日本円に直した売上の伸びは弱く見えることがあります。海外に広く事業を持つ会社を読むときは、商品の売れ行きに加えて、為替というもう一枚のレンズが必要です。
ファーストリテイリングの2026年8月期を題材に、円表示の成長と現地の成長を分けて考えてみましょう。ここでは2026年8月期の通期実績に期間を固定します。現在の為替相場や2027年8月期の見通しを示すものではありません。[1]

海外ユニクロだけで、連結売上の約61%
2026年8月期の連結売上収益は3兆9,633億円、前年比16.6%増でした。海外ユニクロ事業の売上収益は2兆4,111億円で26.2%増。国内ユニクロ事業は1兆848億円で5.7%増です。[1][2]
| 2026年8月期の実績 | 売上収益 | 前年比 |
|---|---|---|
| ファーストリテイリング連結 | 39,633億円 | +16.6% |
| 海外ユニクロ事業 | 24,111億円 | +26.2% |
| 国内ユニクロ事業 | 10,848億円 | +5.7% |
海外ユニクロの売上収益を連結売上収益で割ると、約60.8%です。公表された丸め後の金額から計算した目安で、地域ごとの為替感応度を表す比率ではありません。海外事業の規模が連結にとって大きいことをつかむための数字です。
同じ発表では、地域別の売上収益も示されています。グレーターチャイナは7,240億円(11.3%増)、北米は3,649億円(34.6%増)、欧州は5,126億円(38.7%増)。韓国と、東南アジア・インド・豪州を合わせた区分は8,094億円(30.7%増)でした。[1] 北米と欧州の合計が、グレーターチャイナを初めて上回ったとも説明されています。海外という一つの箱の中にも、地域ごとの伸びの違いがあります。
同じ100ドルでも、円に直すと違う
為替の仕組みだけを、仮定の計算で見てみます。現地の売上が100ドルのままなら、1ドル135円では1万3,500円、150円では1万5,000円です。現地の売上は変わっていなくても、円に直した売上は約11%増えます。
今度は現地の売上が110ドルへ10%増えたとします。同時に為替が135円から150円へ動くと、円換算額は1万6,500円。元の1万3,500円に対して約22%増です。現地の成長は10%でも、円で見ると、その倍以上の伸びに見えることがあります。
- 100ドル × 135円:13,500.0
- 100ドル × 150円:15,000.0
- 110ドル × 150円:16,500.0
これはファーストリテイリングの実際の為替影響額を推計したものではありません。会社の発表でも、連結全体について為替の影響を除いた成長率は示されていませんでした。一つの通貨と固定したレートだけを使った計算です。実際には複数通貨があり、損益の換算に用いる平均レート、取引の時期、各地域の規模が関わります。海外売上に単純な為替変動率を掛けても、実際の利益への影響額にはなりません。
円の売上が強く見えたときも弱く見えたときも、現地通貨でどうだったかを探してみましょう。商品の売れ行きと、円へ換算した影響を分けて読む手掛かりになります。
換算の影響と、仕入れへの影響は別の話
海外子会社の売上を円に直す話と、商品をどの通貨で仕入れるかという話は、分けて考えます。国内で円の売上を得ながら、海外での調達に外貨を使う場合、為替は調達コストにも影響し得ます。その影響は契約や在庫を通じて、時間差で費用に表れることがあります。
実際、会社は今回の発表で、円安が進んだ状況での外貨建ての仕入れに関する為替予約が原価率を押し上げ、主に上期に国内ユニクロの粗利益率の重しになったと説明しています。[1] 円安は海外の売上や利益の円換算額を大きく見せる一方、調達コストにも響き得るわけです。逆方向の効果が、同じ会社の中に同時に存在し得ます。だから「円安ならすべて良い」「円高ならすべて悪い」と一方向に決めるのは難しくなります。
為替予約などを利用していれば、契約の期間や会計処理も関わります。目先の相場が動いた分だけ、次の決算の利益が同じ率で動くとは限りません。会社が公表する調達やヘッジの説明を確認してから、その影響の方向や時期を考えたいところです。
貸借対照表の換算差額は、売上ではない
為替が関わる場所は損益計算書だけではありません。海外子会社の資産や負債を円へ換算する際の差額は、純資産の為替換算調整勘定などにも表れます。期末の資産を換算するレートと、期間の売上を換算するレートは、同じ役割ではありません。
ここでも、純資産の換算差額の増減を「同額の現金を稼いだ」と読まないことが大切です。現金がどれだけ動いたかはCF計算書を見ます。売上の円換算、取引に関わる為替差損益、純資産の換算差額は、同じ為替という言葉が付いていても、それぞれ別の数字です。
この区別がつくと、決算説明の「為替影響を除く」という言葉にも立ち止まれます。どの項目を、どの為替レートで計算し直した指標なのか。会社の定義がないまま、こちらで都合のよい数字を作らないことが重要です。
地域の成長を見た後で、円の数字へ戻る
2026年8月期の海外ユニクロでは、全地域で増収増益でした。会社は要因として、LifeWearの価値を伝える出店、商品・店頭・顧客とのコミュニケーションの連携、北米・欧州での旗艦店や新しい商品の投入、中国大陸の構造改革などを挙げています。[1] 円の換算だけで成長を説明せず、販売や店舗の動きにも戻る必要があります。
会社は一部の地域を現地通貨でも説明しています。例えばグレーターチャイナのうち中国大陸は、現地通貨で売上が約3%増、利益が約18%増とされています。[1] 地域の円表示の伸びと、現地通貨での伸びが一致するとは限りません。為替の影響を取り除けば、残りがすべて同じ質の成長になるわけでもありません。店舗数の増加なのか、既存店の伸びなのか、価格や商品構成の変化なのかで、その先の読み方が違います。
掲示板で「円安だから好調」「円高だから厳しい」といった意見を見かけたら、どの地域、売上か仕入れか、どの期間の話かを具体的な問いにしてみてください。個々の意見を、市場全体の評価とみなさないようにしましょう。
海外売上の大きい会社を読むときは、現地で起きたこと、円へ直したこと、実際のお金の動きという三段階を意識すると、為替のニュースに振り回されにくくなります。数字の上下だけでなく、その間にある計算と事業の動きを読みたいところです。
出典・確認した資料
[1] ファーストリテイリング:2026年8月期 決算概要(2026年10月8日)。連結・国内外ユニクロ売上収益、前年比、地域別の売上と会社説明。
[2] FASHIONSNAP:ファーストリテイリング26年8月期決算の報道(2026年10月8日)。連結・国内外ユニクロの数値を照合。
[3] ファーストリテイリング:為替レート資料。年度・四半期ごとの換算条件を確認する参照先。本文の135円・150円は実績レートではなく計算上の仮定です。確認:2026年11月6日。為替や株価の予測、購入推奨ではありません。
[4] IFRS財団:IAS 21 外国為替レート変動の影響。外貨取引・在外事業・表示通貨の区別に関する公式概要。